車の車検や点検時に、車に刻まれた車台番号が判別できない場合に、必要になるのが職権打刻です。
車台番号は車の戸籍のようなものなので、改変できないよう車のフレーム部分に刻まれるため、通常であれば判別できなくなることは少ないものです。
ですから職権打刻を行う機会も少なく、あまり聞き馴染みのない言葉なのではないでしょうか。
とはいえ馴染みがないからこそ
- 職権打刻とはどのようなものなのか?
- 何のためにするの?
- 車にどんな影響があるの?
などと疑問に思われるかもしれませんね。
実は職権打刻が施されていると「車の価値」は下がってしまいます。
職権打刻は中古車の購入や売買をする上で、知っておいて損はないものです。
また車の状態によっては車検や点検時に、職権打刻の手続きを行わなければならないかもしれません。
そこでこの記事では職権打刻とはどのようなものか、何のために行い、車にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
職権打刻とは?
職権打刻(読み方:しょっけんだこく)とは車の車台番号が、何らかの理由で識別困難になった場合に新しく番号を付与してもらう手続き及び、新たな番号の打刻のことです。
車台番号は車に刻まれた番号と、車検証に記載された番号が同一であることが重要です。
両方に同じ番号が記載されていることで、国に登録されている車である証明となります。
しかし車台番号が劣化や損傷などによって識別困難になってしまうと、車検証と車が同一であると証明できません。
車検証と車が同一であると確認できないと、以下のような問題が発生します。
- 車検を受けることができない
- 自動車保険の手続きが行えない
- 万が一盗まれても探すことができない
- リコール対象車かどうか確認できない
こういった問題が発生するため、車台番号が判別できない状態になった場合は、新しく車台番号を発行してもらわなければなりません。
新たな車台番号の発行は、車のナンバーが登録されている運輸支局で受け付けています。
運輸支局で発行した新しい車台番号は車検証に記載され、車自体にも新たに刻まれます。
この車ごとの個別番号である車台番号を、新たに付与し直す手続き・打刻が職権打刻と呼ばれるものです。
(https://carnext.jp/column/139/より)
現在の職権打刻はシールを貼る
職権打刻という名称ではありますが、車へ改めて数字を刻むわけではありません。
現在(平成21年7月1日以降)では金属製のプレートに番号が書かれており、それをセキュリティラベルというシールで貼りつける方式になっています。
そのため車のナンバーが登録されている陸運支局で手続きを行い、このプレート・シールを車に貼ってもらえれば職権打刻完了です。
また車台番号は「10桁前後のアルファベットと数字」で表記されますが、職権打刻の場合は「漢字+数字」で表されます。
- 車台番号:RY2-67×××××
- 職権打刻:国[01]××××××
このように職権打刻には漢字が混ざるため、車台番号と職権打刻は容易に見分けがつくようになっています。
また車検証には[ ]がつきますが、車に刻まれる番号には[ ]がありません。
ちなみに以前(平成21年まで)は「国[01]」ではなく、都道府県の漢字一文字と都道府県固有の番号が刻まれていました。
- 東京:東[41]××××××東
- 大阪:大[61]××××××大
そのためどの都道府県で、職権打刻が行われたのか一目瞭然です。
しかし現在はどこの都道府県で手続きをしても、「国[01]」で統一されています。
(http://www.waspa.or.jp/osirase/2017/sitei/hotekikisai.pdfより)
職権打刻が行われる4つの理由
車台番号が判別できなくなった際に行われる職権打刻ですが、車台番号が判別できなくなる理由は大きく4つ考えられます。
以下4つの理由について、それぞれ詳しく解説します。
- 塩害や雪害で腐食ダメージを受けたため
- 交通事故等によりパーツが交換されたため
- 並行輸入車であるため
- 盗難車であることを隠すため
(https://carnext.jp/column/139/より)
塩害や雪害で腐食ダメージを受けたため
塩害や雪害などで腐食して、車台番号が判別不能になることがあります。
塩分が含まれる潮風に晒され続けることによる腐食と、融雪剤に含まれる塩化カルシウム・塩化ナトリウム・塩化マグネシウムなどによる腐食の大きく2パターンが挙げられます。
そのため特に海の近くや、雪国で受けやすいダメージです。
しかし車台番号は車の骨格であるフレームに刻まれるため、キチンと手入れしていれば判別できないほどに腐食することはありません。
交通事故等によりパーツが交換されたため
交通事故等により車台番号が刻まれたパーツが、損傷・交換された場合も職権打刻が行われます。
車台番号が識別不能になるほどのダメージを受けた、もしくはフレームそのものを交換したといった場合が考えられます。
事故にあった車を廃車にせず、修理に出した場合に起こり得るパターンです。
並行輸入車であるため
並行輸入車には車台番号がないため、職権打刻が行われます。
通常は輸入車であっても、正規代理店を経由していれば車台番号が刻まれています。
しかし個人輸入の場合は車台番号が付与されないため、車両登録時に職権打刻が行われます。
盗難車であることを隠すため
盗難車であることを隠すために、わざと車台番号が削られる場合があります。
車台番号は車の戸籍のようなものなので、警察が確認すれば被害届の情報から盗難車であるとわかります。
しかし車台番号が削られてしまうと、照合が出来ず警察は追跡できません。
そのため窃盗犯は車台番号から足がつかないように、わざと車台番号を削るのです。
書類を偽装して職権打刻を行い、そのまま売却されて市場に出回ることさえあります。
職権打刻車のデメリット2つ
腐食や事故、盗難など様々な理由から車台番号が判別できなくなれば、職権打刻しなければなりません。
しかし職権打刻が施された車は「買う場合」と「売る場合」どちらもデメリットがあります。
ここからは職権打刻車のデメリットを解説します。
職権打刻された中古車の購入は故障・トラブルに繋がりやすい
職権打刻された車は深刻なダメージを負った車や、盗難車、並行輸入車などの可能性があるため購入の際は要注意です。
- 車体に深刻なダメージを受けたかもしれない
- エンジンを含め内部にダメージがあるかもしれない
- 盗難車であるかもしれない
- 並行輸入車かもしれない
車台番号は車の骨格に当たるフレーム部分に刻まれるため、余程のことがなければ判別不能になることはありません。
そのため職権打刻された車というのは、腐食や事故をはじめ何らかの深刻なダメージを受けている可能性が高くなります。たとえ修理されていても、安全性に不安が残ります。
また車台番号がわからないほど腐食している車は、しっかりとメンテナンスされていないため、エンジンをはじめ内部にもダメージが及んでいることもあるでしょう。
さらに盗難車が職権打刻され、販売されている可能性も考えられます。購入後に盗難車と判明すれば、犯人だと疑われるかもしれません。
加えて外車の場合は、並行輸入車である可能性があります。
特に問題ないように思えるかもしれませんが、並行輸入車は正規代理店を通していないため「国内でサポートを受けられない」「自動車保険に加入しにくい」というデメリットがあります。
いずれにせよ故障やトラブルを起こしかねないため、職権打刻済みの中古車は購入を避けるのが無難です。
職権打刻車は買取価格が大幅にダウンする
職権打刻された車は買取価格が、大幅にダウンしてしまいます。
JAAI(一般財団法人日本中古車査定協会)の中古自動車査定基準及び細則〔Ⅰ〕によると、職権打刻車はその価値を基本価格×30%以内までなら、減点させて構わないとされています。
これは職権打刻が行われた車は「深刻なダメージを受けている」「盗難車である」など、なんらかの問題を抱えている可能性が非常に高いためです。
そのため職権打刻されているというだけで、どうしても車の価値は下がってしまいます。
売却する際は複数の買取業者に相見積もりを依頼して、少しでも高く買い取ってくれる業者に売却しましょう。職権打刻車を高く売るためには、工夫する必要があります。(職権打刻車の売却を検討している方はこちらを参考にしてみてください。)
職権打刻のやり方は?必要書類と費用を解説
車検や新規登録の際に、検査官が車台番号を読み取れなかった場合に職権打刻は行われます。
この職権打刻の申請には、いくつかの書類と費用が必要です。ここからは職権打刻のやり方について、順を追って解説します。
運輸支局で現車確認
まずはナンバーが登録されている運輸支局に車を持ち込み、車台番号の打刻状態を確認してもらいます。
運輸支局の職員に車台番号が判別不能になっていることを、認めてもらわなければなりません。
車台番号が摩耗や腐食などで読み取れないと判断された場合のみ、打刻申請の手続きに進みます。
もし車台番号が薄いだけだったり、類推できたりして車検証と同一の車両であると確認できるようであれば、職権打刻は必要ありません。
また現車を持ち込む際に、必要書類が揃っているとスムーズに手続き可能です。
打刻申請および打刻
車台番号が確実に判別不能であると認められれば、打刻申請を行います。
この打刻申請には、以下のような書類が必要となります。
- 職権打刻申請書
- 製造証明書(腐食などで識別困難になった場合など)
- 車検証のコピー
- 旧打刻の拓本又は写真
- 申請車両のシリアルプレートの写真
- 車両の外観写真(前後左右の合計4枚)
(https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/niigata/kennsa/dakoku/index2.htmlより)
職権打刻申請書は運輸支局にあるので、職員の指示に従って記入しましょう。運輸支局によってはホームページからダウンロードできる場合もあります。
製造証明書は、その車両を製造したメーカーが発行してくれる書類です。ディーラーへ問い合わせると発行してもらえるので、事前に発行しておくとスムーズです。
ただし製造証明書の発行費用はメーカーによって異なり、輸入車の場合は有料かもしれません。ディーラーに発行を依頼する際は、費用や届くまでの期間についても確認しておくと安心です。
また旧打刻の拓本又は写真に関しては、ディーラーにデータや写真が保存されている可能性があります。もし自分で撮った写真があれば、その写真でもかまいません。旧車台番号の拓本や写真がない場合は、陸運支局の職員に相談してみてください。
申請する車が輸入車の場合は、車のどこかにシリアルナンバーが刻まれたプレートがあります。その写真も用意しておきましょう。
打刻申請が無事完了すれば、陸運支局職員により車体に職権打刻を施してもらえます。
新しい番号が刻まれたプレートを専用のシールで貼り付ければ、打刻完了です。
車検証の変更登録申請
車体への打刻が終わったら、車検証の変更登録を申請します。
車台番号は、車に刻まれた番号と車検証の番号が一致しなくてはなりません。そのため、打刻実施日に車検証の書き換えも同時に行う必要があります。
車検証の情報を書き換えるための申請には、以下の書類と費用が必要です。
- 手数料納付書(手数料印紙350円)
- OCRシート2号様式(打刻の位置によっては10号様式も必要)
- 委任状(所有者及び使用者の印鑑)
- 自動車検査証
陸運支局にて上記の必要書類を記入し、提出しましょう。
まとめ|職権打刻車の売買は要注意
職権打刻とは車の戸籍にあたる「車台番号」が判別できなくなってしまった際に、改めて番号が付与される手続きです。
判別不能になる理由としては、腐食のような劣化、事故によるパーツの損傷などが考えられます。
しかし車台番号は車のフレームのように頑丈なパーツに刻まれるため、どちらの場合も車に深刻なダメージを受けている証です。
また並行輸入車であるため、車台番号がない場合や、盗難車であることを隠すため故意に車台番号が削られている場合も考えられます。
このように職権打刻が行われる際は、何らかのトラブルが発生した場合が多いため、職権打刻車の売買には十分注意しなくてはなりません。
特に中古車を購入する際は、職権打刻車は避けるべきです。深刻なダメージを受けた車や盗難車などであれば、故障やトラブルの原因になりかねません。
中古車を購入する際は必ず車台番号を確認し、もし職権打刻車だった場合は販売者に経緯を確認しましょう。
さらに職権打刻車を売却する際は、大幅に価値が下がってしまいます。
売却する際には一括査定などで複数の買取業者に査定を依頼して、比較検討することをおすすめします。(職権打刻車の売却を検討している方はこちらを参考にしてみてください。)